ブログ - 2026-08-31 23:36:00

会場音響調整の考え方②|調整前に確認したい設備構成と信号経路

Posted by 中村 晋作
Shinsaku Nakamura

「音が悪い」と感じたとき、最初にGEQを触りたくなることがあります。

ただ、実際にはその前に確認しておきたいことがあります。

その会場の音が、

どこから入り、どの機器を通り、どのスピーカーから出ているのか。

そして、

どの機器で、何を変更できるのか。

ここが分かっていない状態で調整を始めると、原因とは違う場所を触ってしまったり、別の機器ですでにかかっている処理にさらに補正を重ねたりすることがあります。

今回は、僕が会場の音響設備を調整するときに、まず確認している「設備構成」と「信号経路」について整理します。


まずは入力からスピーカーまで信号を追う

会場の音響設備は、単純化すると、

音源・マイク
→ ミキサー
→ GEQ
→ System Controller / DSP
→ パワーアンプ
→ スピーカー

という流れになります。

ただし、これはあくまで一例です。

GEQやSystem Controllerの順番、信号の分岐方法、DSPの位置などは、設備構成や調整目的によって異なります。

会場音響の信号経路の一例。まずは、音がどの機器を通ってスピーカーまで届いているかを把握します。

実際に調整を始める前に、僕が確認するのは、

  • ミキサーの出力がどこへ入っているか
  • そこから何の機器を通っているか
  • どのアンプがどのスピーカーにつながっているか
  • メイン、補助、サブウーファーがどう系統分けされているか

という部分です。

配線図やシステム図が残っていれば分かりやすいですが、古い設備では資料が残っていなかったり、途中で機器が変更されていることもあります。

そういう場合は、実際のケーブルや機器の入出力を追って確認します。

既設の音響ラック。調整前に、各機器の役割と信号が流れる順番を確認します。


機材の名前より「何をしている機器なのか」を見る

ラックに機材が並んでいると、メーカー名や型番に目が行きがちです。

もちろん機種を把握することも大切ですが、調整するときにまず知りたいのは、

その機器が信号に対して何をしているのか

です。

例えば、ミキサーはマイクやBGMなど複数の入力をまとめ、音量やバランスを調整して出力します。

GEQ(Graphic Equalizer/グラフィックイコライザー)は、決められた周波数帯域ごとのレベルを上下させる機器です。

会場の音のクセや、必要以上に強く聞こえる帯域などを補正するときに使います。

System Controllerは、使用するスピーカーに合わせたメーカー推奨の処理や、クロスオーバー、フィルター、レベル管理などを担当します。

DSP(Digital Signal Processor/デジタル信号処理装置)を使用している設備では、さらに細かく、

  • ルーティング
  • EQ
  • HPF / LPF
  • クロスオーバー
  • ディレイ
  • 出力レベル
  • リミッター

などを設定できます。

パワーアンプも、単純に音を大きくするだけとは限りません。

機種によっては、HPFやLPF、Subwooferモード、DSP、リミッターなどの機能を持っていることもあります。

つまり、

音を変えている可能性がある場所は、GEQだけではありません。


System Controller型とDSP型では、できることが違う

僕が調整してきた会場でも、設備構成によって変更できる範囲はかなり違います。

ある設備では、System ControllerとGEQを中心に構成されています。

こうしたシステムでは、

  • メーカー推奨のスピーカープリセット
  • 出力レベル
  • フィルター
  • GEQ
  • アンプ側の設定

などを使って調整します。

一方で、スピーカーごとに細かくディレイを入れたり、自由にルーティングを変更したりすることはできない場合があります。

System ControllerとGEQを組み合わせた設備の例。それぞれで調整できる項目を確認してから、実際の音質調整に入ります。

別の設備では、Bose ControlSpace ESP-880AのようなDSPを使っています。

DSPではPC上から、入力と出力の信号経路を確認しながら、スピーカー系統ごとに個別の処理を設定できます。

例えば、

  • メインスピーカー
  • 補助スピーカー
  • サブウーファー

をそれぞれ別の出力として管理し、EQやレベル、ディレイなどを個別に設定することもできます。

調整の自由度はかなり高くなります。

ただし、

できることが多ければ、それだけで良い音になるわけではありません。

変更できる箇所が増えるほど、どこで何を処理しているのかを正確に把握する必要があります。


スピーカーがそれぞれ何を担当しているか確認する

次に確認するのが、会場内に設置されているスピーカーの役割です。

同じ会場に複数のスピーカーが設置されていても、すべてが同じ役割を担当しているとは限りません。

例えば、

  • メインスピーカー
  • 補助スピーカー
  • 天井スピーカー
  • フロントフィル
  • サブウーファー

などがあります。

メインスピーカーだけを聞いたときには問題がなくても、補助スピーカーや天井スピーカーを加えたことで、特定の帯域が強く感じられることもあります。

逆に、

「低音が足りない」

と思ってEQを上げたものの、実際にはサブウーファーのレベルやクロスオーバー設定の問題だった、ということも考えられます。

そのため、EQを触る前に、

どのスピーカーが、どのエリアや周波数帯域を担当しているのか

を把握しておくことが大切です。

会場内には複数のスピーカーが設置されています。どの位置のスピーカーが、どのエリアや役割を担当しているのかを確認した上で、全体のバランスを整えていきます。

DSPを使用している設備では、メインスピーカーを基準に調整したあと、補助スピーカーを加えながら全体のバランスを見ることもできます。

一方、既設設備では天井スピーカーなどが固定されていて、個別にレベルやディレイを変更できないこともあります。

その場合は、その条件を前提に全体を整えていくことになります。


まずメーカー推奨の設定を確認する

既存設備を調整するときは、いきなりEQを変更するのではなく、まず土台となる設定を確認します。

特にSystem ControllerやDSPには、使用するスピーカーに合わせたメーカー推奨プリセットが用意されていることがあります。

確認したいのは、

  • スピーカーの型番
  • 使用しているプリセット
  • サブウーファーの有無
  • 使用モード
  • アンプとの組み合わせ

などです。

もし、この土台となる設定が間違っていた場合、その上からGEQを使って補正しても、本来の状態にはなかなか近づきません。

まず、

システムとして正しい設定になっているか

を確認する。

その上で、実際の会場に合わせて調整していきます。


既存の設定は、いったん疑って見る

既存設備を確認すると、すでにGEQが大きく変更されていることがあります。

もちろん、その設定にきちんとした理由がある場合もあります。

ただ、

  • 誰が調整したのか
  • いつ調整したのか
  • そのときの設備構成はどうだったのか
  • 何を基準に調整したのか

が分からないこともあります。

僕の場合、既存のGEQを見て違和感があるときは、その設定にさらに補正を足していくより、

一度フラットに戻して、現在の設備を確認する

ことがあります。

実際に最近調整した会場でも、最終的にはGEQを一度リセットして、そこから改めて調整しました。

これは過去の設定を否定するという意味ではありません。

機器の交換やスピーカーの状態、会場の使われ方など、時間が経てば条件も変わります。

だからこそ、

今の設備と今の会場を、いったんゼロから評価し直す

という考え方です。


変更できないものは、変更できない前提で考える

調整していると、

「このスピーカーだけディレイを変えたい」

「ここだけ個別にEQを入れたい」

と思うことがあります。

DSPを使っている設備なら対応できる場合もありますが、既存設備ではそうはいきません。

System Controller中心の設備では、DSPほど自由にルーティングやディレイを変更できないことがあります。

天井スピーカーなどが、既存の配線上どうしても個別調整できない場合もあります。

こういうときに重要なのは、

できないことを無理に追い続けないこと

です。

その代わり、

  • プリセット
  • 出力レベル
  • フィルター
  • GEQ
  • アンプ側の設定

など、実際に変更できる部分の中から、効果のある調整を選びます。

僕は会場音響の調整では、

理想的なシステムを新しく作ることよりも、今ある設備の中で最も良い状態を作ること

が重要だと考えています。


まとめ

音響調整というと、EQの設定や測定方法に目が行きがちです。

でも、その前にやるべきなのは、

その会場の音がどう流れていて、どこで何を変更できるのかを把握することです。

信号経路を追い、各機器の役割を確認し、スピーカーの担当範囲を理解する。

その上で、

できる調整と、できない調整を整理する。

ここまで分かってから、具体的な音質調整に入ります。

次回は、実際に会場の状態を確認するための「測定」について書いていきたいと思います。

Posted by Shinsaku Nakamura
佐賀 所長代理/ディレクター/クリエイター 中村 晋作

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