ブログ - 2024-11-30 20:41:00

首藤誠人という男 中編

Posted by 大窪謙志郎
Kenshiro Okubo

前編に引き続き読んでくださっている諸君には深く感謝する。

 

晴れて大学生になった2019年4月1日。

大窪謙志郎と首藤誠人は再会する。

彼ほど時間を共有した人物はいない。私の全てを知っているような奴である。

入学から順を追って歴史を深掘って行くつもりだったが、今回彼について記しているのは、今の彼について紹介したいからである。

 

「首藤誠人」改め 「脚本家 首藤誠人」改め「天才脚本家 首藤誠人」

 

彼には脚本の才能がある。いや、どうやらあるらしい。

芸術工学部というのは少し特殊で、元は九州芸術工科大学が九州大学と合併したものである。そのためキャンパスはあの最寄駅から徒歩50分で有名な伊都キャンパスでは無く、学部として大橋に独立している(夏場は世界一蝉がうるさい場所として大窪ギネス認定されている)。

大学1年、春。芸工生は学部独自の部活やサークルに所属する人がほとんどで、その多くは学祭で催しをするための通称学祭サークルのいずれかに入るのだが、私はいまいち惹かれずに無所属人間になろうとしていた。一通り部活やサークルの紹介が行われた日の夜、どこの団体も新入生歓迎の会を開くということで同級生が散らばる中、所在なさげな私の手を引いて首藤誠人は私を演劇部の新歓へと連れ出した。手を引いたのは嘘である。我々は別に演劇に興味など微塵もなかった。ただなんとなく流れで行き着いたのがそこだっただけだ。ひょんなことからという言葉があるが、これがまさに「ひょん」である、居心地が良かったからなのか、数時間後には演劇部員大窪と首藤が爆誕していた。

大橋キャンパス演劇部というのはただ演じるだけではなく、舞台や映像、音、衣装など全てを自分たちで手がけるというなんとも芸術工学を感じる活動内容なのだが、脚本とて例外ではない。既存の脚本を用いることもあるが、部員が1から考えた脚本の公演もある。私は最初こそ出役に興味はなく、舞台班や映像班に属していたのだが、後半にはすっかり演者としても活動をした。

そこで思わぬ才能を開花したのが首藤である。彼は入部して一番最初の公演で役者をしたかと思えば、そののち脚本も2,3手がけるのだが、彼の活動は学校の部活程度では収まらない。(参考までに、彼の一作品「猫かぶり」を紹介しておく猫かぶり)

ある時、福岡学生演劇祭に出場をしないかという話が弊部に舞い込んできた(福岡学生演劇祭とは)。部としての出場こそしないものの、有志を募って新しい団体として出場することになり、劇団烏龍茶が結成した(私は舞台班所属)。脚本は首藤誠人。

初めて学外で行う演劇である。しかも審査員や観客による順位がつけられる独特の空気感。そんな中で劇団烏龍茶による「くだらない」は静かに幕を開けた。彼の真骨頂である日常の表現、何もないところに物語を紡ぐ才能。福岡は、首藤誠人という天才のデビューを鮮烈に目の当たりにすることになる。その年、劇団烏龍茶は福岡学生演劇祭で大賞と審査員賞の2冠を達成するのだった。

普段はただ学内で公演を行なっているだけだった我々は、福岡を獲ったが故にいつの間にか全国学生演劇祭への切符まで手にしてしまった(全国学生演劇祭とは)。全国と名がつくものの、その年の開催地は福岡のキャナルシティのすぐそばにあるぽんプラザホールで、遠征を少し期待していた私は肩を落とした。はるばる東京や北海道からやってくる学生達はなんだか別の世界の住人のように見え、ウォーミングアップから上手そうに見える。一観客として見る彼らの演劇は確かに面白かった。自分たちが場違いのように感じた。しかしそんな中首藤誠人だけは違った。どこに焦点があっているのか分からない、確かに会話はしているのに自分を見ていないような雰囲気。一言ずつがゆっくり、重く脳にのしかかってくる。ゾーンに入っているのである。何人たりとも近づけさせないオーラ。初めて彼を怖いと感じた。この辺はだいぶ嘘である。

ちなみに、私と首藤は何においてもことごとく趣味が合わない。本当ににことごとく。だから私は首藤の脚本を面白いと感じることはあまりない。少なくとも「くだらない」は全国の舞台では観客賞の順位も最下位に終わってしまった。しかし驚くべきことに、審査員最優秀賞、つまりは演劇を知っている人たちの評価は、劇団烏龍茶、我々に向けられることになったのでる。これは彼の脚本を評価できなかった私を含む多数の人間の非凡さが浮き彫りになる形になってしまったと言っても過言ではない。やはり彼は天才なのである。

 

つづく

Posted by Kenshiro Okubo
熊本クリエイター兼カメラマン 大窪謙志郎

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